店番日記(2001年10月〜12月)     スタッフご紹介

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最新の日記 


12月31日

 いつの間にか大晦日になってしまった。今年はあまり景気の良い話はなかったし、洋品店の売り上げも過去最低であった。でもまあ、楽しかったし、開店して6年目になったし、お店もまだつぶれないみたいだし、七味さんも元気だったし、...良かったかな。来年はレディスがマニッシュとかボーイズスタイルの流行もなくなるようだし、色や柄ものも復活しそうだからもう少しなんとかなるか。*生き残るために『洋品店をやめてセブンイレブンにすれば良いのではないか』とお客さんの松尾さんが言った。セブンイレブンは借金もなく健全な経営をしているのだそうだ。アイデアとしてはいけるが....、とりあえず石川のおでこをセブンイレブンにしてみた。売上は上がるのか?*今年1年、我孫子洋品店を応援してくれた皆さん、本当にありがとうございました。来年もよろしくお願いします。


12月15日(土曜日)

 我孫子でビンラディンを見かけた、とお客さんのM子が興奮して言った。白昼堂々と朝日屋食堂の隣の怪しいプレハブ小屋から出て、ママチャリに乗りチャレンジャーに入っていったそうだ。ビンラディンがエロビデオを自販機で買うとは思えないし、パチンコをするとも思えない。しかし、その姿は確かに笑える。...M子はFBIかアメリカ大使館に連絡して賞金をもらうつもりでいる。うーん、信じてもらえるのだろうか?


12月11日(火曜日)

*『石川さん、これボタン付けお願いします』『るせーな、いま忙しいんだよっ!』とケータイをピコピコやっている。*『石川さん、カガミ拭いといてください』『疲れた...』『は?』『ツ、カ、レ、タ!』*『石川さん、お客さんにはちゃんとした日本語で接客してくださいね』『めんどくさい...』『は?』『メ、ン、ド...』*週末から風邪をひいていたてんちょがやっと元気になった。あじくん、ありがとう。


12月4日(火)

 我孫子洋品店は今どき珍しく『狭い』『汚い』『薄暗い』の3拍子そろった古着屋みたいな洋品店である。また、『店内での恋愛は禁止』、『忙しい』『疲れた』『めんどくさい』という言葉の使用禁止、商品の上でのおひるねの禁止といった厳しい規則がある。以上、確認のため。


11月28日(水)

 レディスの白いコートが売れているそうである。黒白の無彩色はこのところの流行であり、白は春夏の流行色でもあるのだ。...3年ほど前にも同じようなことがあった。春夏のトレンドが白で、その前の秋冬には白のダッフルが流行った。『白は膨張色だから太って見える』と、あるお客さんが七味さんを見ながらいった。『そうです。太って見えるのであって、実際には太っていないのです』と、てんちょも七味さんを見てそう言った。


11月22日(木)

 石川の連続遅刻記録が今日で途切れた。公式の記録として、34日連続ということなのである。おそらくこの記録は誰にも破れないだろう。もちろん、石川以外には。....


11月18日(日)

七味さんは眉間にシワを寄せて眠る。寒い寒い夜、

あったかいiMacの上。

眉間にシワを寄せるているのは、

もちろんお客の少なさを心配しているからだと思われる。

のほほんとしているようで、実は七味さんもちゃんと店の売上の事などを考えているのだ。

...眠りながらも悩んでいるのだ。

と、ひとりお客さんが入ってきた。 

日曜の夜の、貴重なお客様なのである。

...iMacの上の七味さんを見て

『あ、かあわいい、店番してるの?』と頭をナデナデした。

七味さんは目を醒まし、眉間のシワはそのままで、

そのお客さんを睨んだのである。

お客さんがすまなそうに帰ってしまうと、

...また寝た。

『大切なお客さんを睨んじゃダメじゃないか!』

とてんちょが七味さんを叱った。

七味さんはただ、とぼけた顔をするだけなのであった。


11月11日(日)

 寒いよね。毎日がすごいスピードで過ぎ去っていくようで、恐い。小泉の構造改革とかブッシュのテロ対策のイイワケとかには、もう飽きた。石川が、寒い寒いとうるさいので、てんちょが石川に灯油を飲ませて、火のついたマッチを口に入れた。石川は『うー、身体の芯からあったまるー!』と頬を紅潮させて感動していたのである。


11月2日(金)

 『パンは生きてるんですよ』パン屋で修行しているトニーがそう言った。『そうそう、おれも見かけたよ。6号を歩いてたぜ』てんちょが鼻を膨らませてそう言った。『それはアンパンマンか何かでしょ?』『ばか!おれのことを現実認識できないアニメオタクだとでも思ってンのか?アンパンマンがその辺歩いてるわけねーだろ!』『じゃあ、パンってどんなパンですか?』『..あれはフランスパンだな。パリジャンとかバゲットとかいうヤツだ』『で、フランスパンが何してました?』『6号のあさひや食堂の隣のプレハブ小屋に入っていったよ』『それで?』『それだけだ、パンは生きているのだ。なあ、トニー』トニーは俯いたまま返事もしなかった。 *『ストレスがたまったら洋品店でお買い物です』と筑波の病院でリハビリの先生をしている綺麗なおねいさんが言った。『いやあ、そう言っていただけると嬉しいですね。励みになりますよ。...僕もリハビリ指導お願いしようかな』と、デレデレしていた。 *『サーロインステーキが180円で売ってたぞ』...かなり興奮していた。...以上、今日のあのヒトのおバカ語録。


10月30日(火)

 都内某所へ仕入れに行ったてんちょが、その帰り道で起こった『不思議なできごと』を、七味さんと僕に語ってくれた。...明治通りを越えたあたりで、バックミラーに映る一羽のカラスを発見した。カラスはその後も軽トラの後をピッタリとついてくるのである。環七の手前で信号待ちをしていると、カラスは語りかけるように一声発し、左に旋回した。『環七を左折しろ!』オレにはそう言っているように思えたのだ。しかし、環七には入れない。環七を左折すれば我孫子が遠くなる。仕入れたアメリカ古着を早く店に届けなければならない。...戸惑っていると、またカラスが鳴き、左に旋回した。何故だろう、急に『行かなければならない』という使命感のようなものが沸き起こったのである。俺は左折し、カラスの跡を追った。...環七を半周ほど回った辺りで青梅街道を右折、そして叉すぐに右折、細かい市道を抜けたところで、カラスはは前方の道路に着地した。どうやら目的地に着いたようなのだ。オレは車から降りて、あたりを見渡した。高円寺。懐かしい風景がそこにあった。そうだ、オレは昔、ここに住んでいたのだ。高円寺南四丁目35-13、高円寺墓地の隣、小池荘というアパートに、オレは2年間住んでいたんだ。...オレを導いたカラスは、墓地のブロック塀の上から嘴を動かし何やら合図をした。『あれを見ろ』ということなのか。カラスが示す方向を見ると、ひとりの若い男が歩いてくる。ボロボロのジーパンに色褪せた黒のオールスター、赤いTシャツにオリーブドラブのコーデュロイジャケットを羽織り、黒のニットキャップを被っている。どこにでもいそうな若者だ。タバコをくわえたその顔には見覚えがあった。ヒゲもメガネも無かったが、それは確かにあの時の、...19才のオレだった。(つづく)今回のてんちょの話は長い。七味さんを見ると、やはり背中を向けて寝ている。この話の続きは、また、改めて書く事にする。そのうち何かオチがある、はずなのだが...。


10月28日(日)

 『やまもと君、キミもそろそろ疲れがたまってる事だろう。明日は仕事を休んで、のんびりしなさい』という、てんちょの優しさに甘え、ひさしぶりの休日。...適度な睡眠、運動、適量のアルコール。子供の頃から愛読している『幸福な王子』『走れメロス』をまた読む。KORNの古いのを聴く。A.D.I.D.A.Sはアディダスじゃなくて ALL DAY I DREAM ABOUT SEX なのだそうだ。『フォレスト・ガンプ』を観る。(いつも同じ場面で涙が出る)...雨の中をぶらぶら出掛ける。柏の街は人で賑わっていたが、とくに面白くもなかった。部屋に戻り、『カンガルーノート』を読む。休日の過ごし方ってこんなもんだっけ?ふと疑問がわく。...何かが足りない。『チェ・ゲバラ』を読む。革命家という職業も不思議だ。...夜になって、どうしても気になったので洋品店に行った。ウィンドウから中を覗く。いつも僕がポーズをとっている場所に、七味さんの白く小さい足が艶かしく下がっているのが見えた。しっぽがパタパタとかわいく揺れている。七味さんが僕の代わりに仕事をしているのである。...やっぱりもう、休みなんか要らない。


10月18日(木)

 冷たい雨の日が2日間続いた。寒い。寒くて丸くなっている七味さんには、なんだかくすぐったいような、懐かしいような、甘い悲しみが在る。僕たちも自然の一部なのだということを思い出させてくれる。...夜になってますます寒くなり、雨は止んだけど、お客さんは少なく、てんちょも丸くなって七味さんに添い寝していた。明日は秋晴れだ。


10月5日(金)

 『今年は何が流行るの?』とか、『ナイロンジャケットやダウンベストはまだイケるの?フリースは?』『黒はまだ大丈夫かな?』なんてことをよくきかれる。『ピージャケットも黒もナイロンも大丈夫。大判ストールも迷彩もアニマルもロックもリメイクも全然問題無し。ただ流行りネタは量販店で安売りするから注意。...おばさんやおじさんが着てしまうからね。ビルケンのサンダルをユニクロがパクってたけど、この業界では当たり前。売れるもの流行るものは売ったもん勝ちだから...』と言っておく *『もうパーカーは着たくない』っていう人もいるし『かわいいパーカーがもっと欲しい』『コテコテのヒップホップは恥ずかしい』『誰も着てない服が欲しい』『雑誌に載ってるブランド服以外は興味がない』『やっぱりエスニックが好き』『カレにギャル服を着ろって言われてるんだけど...』とまあ、当たり前だけどいろんな人がいる。それでいい。 *メンズのファッション雑誌はどれも似たようなスタイルを押し付けてるようでぼくは嫌いだ。お馴染みの人気ブランドとか人気ショップの広告みたいな記事がまたそのブランドや店の人気とネームバリューを押し上げる。無名でも良い物を適正価格で作っているメーカーはたくさんあるのに。人気のブランドやショップのプレスが雑誌の編集してるみたいだ。なんかおかしいぞって思う。 *(女)『あー、かわいい!どう、これ似合う?』(男)『かわいくねえ、似合わねえ!』(男)『これかっけえな、買おうかなあ』(女)『えー、変だよ。高いし、...やめなよ』などと目の前で営業妨害するカップルのお客さんがいる。『自分で決めろや』とこっそり大阪弁で唄ったり『てめえら別れちまえ!』と心で思って笑顔で『ありがとうございました、また来てね(ひとりで)!』 *牛肉が安い。特に国産牛。普段高級な国産牛を食えない僕たちにはありがたい話である。新型ヤコブ病の恐れは肉や乳製品にはなく、ビーフエキスや肉エキスといった加工食品にあるらしい。製造者でさえその原料の詳細がわからないそうだ。...ほとんどの洋食には肉エキスが使われているし、レストランのカレーにしろスパゲティにしろ業務用のビーフXが使われてきたわけだから、僕たちにはもう手遅れなんだ。心配なのはむしろこれから生まれてくる人やこれから産む人。潜伏期間が長いのが問題を複雑にしている。 *てんちょが[WAR IS NOT THE ANSWER]とプリントしたTシャツを作った。...いったい世界の偉い人たちは何度同じことを繰り返すのだろうか?僕も偉くなったら同じことをするのだろうか?テロの指導者は何故あんなにもアメリカを憎むのだろうか?アメリカは反米教育を受けた子供たちも殺すのだろうか?数人のテロ指導者のために1発何千万円もするミサイルが打ち込まれるそうだが、そのお金で何万の人や生き物が救われるのだろうか?日本は手放しでアメリカを支援するべきなのか?僕たちの納めている税金がまた虚しく消費されるだけではないのか? *七味さんが寝言をいう。どんな夢を見てるのだろう?(文責はすべてヤマモトに有ります)


10月3日(水)

 もう10月なのである。『...遠くから来てたくさんお買い物してくれた、君津のなおち先生、埼玉のまゆちゃんどうもありがとう。貢献度ナンバーワンの天王台のすすむくん、アジくんありがとう。北海道から来てくれた9月のお客さん、ミュージカル女優のしばたま、手首切っちゃう病気のしおりちゃん、そのほか洋品店を応援してくれたみなさん、どうもありがとうございます。みなさんのおかげで洋品店はなんとかイタミの9月を乗り切っちゃいました。もう少し頑張れそうです。』と日記に書いてくれっててんちょが言うから書いたけど、ホントは結構やばい。洋品店の売上は世の中の経済状況、消費動向をそのまま反映しているのである。

 そんな情報がどこから洩れたのか、...忘れかけていたアイツが、また来た。...午後、石川はいねむり、てんちょと七味さんはおでかけ、ふっと入ってきたそのスーツ姿の男はまさしくあの覆面Rであった。今日は変装していない。

『やまもと、久し振りだな...』

『何しに来た?』

『こんどまたウチの店ができるんでね』

『それがどーした?』

『わかってるだろ?君の力が必要なんだ!』

『何度言えばわかるんだ。ぼくはてんちょを裏切れない。ぼくがこの店から離れるわけがない!』

『この店はもうダメだ。君だって知ってるはずだ』

『うるさい、だまれ、帰れ!』

『商売のやり方が古臭いのさ』

『蹴るぞ、このやろう!』

『ウチの店はこんな経済状況でも売上を伸ばし続けている。なぜか?...媒体の活用に長けているからだ。当たり前のことじゃないか。資本基盤もしっかりしているし、ウチはまだまだ伸びていくだろう。君のポストも空けてある。報酬はもちろん地位も上がる。他に何が不満なのだ?』

『そう言う事じゃない。お店の将来性とか自分の給料とか、そう言う事じゃない。ぼくは、ただ、この店が好きなのだ。ただ、そう言う事なのだ!』

『...そうか、...何を言っても無駄な用だな...』

覆面Rが始めて悲しそうな目を見せた。

『また来る。来るなと言うかもしれないが、...また来るよ』

Rはそう言ってすっと店を出ていった。石川は気持ちよさそうに涎を垂らしている。ぼくはこの日ずっと複雑な気持ちのままでいた。しかし、覆面Rとの会話の中で自分自身の確固たる何かを発見したような気がして、なんだかスッとしたのも確かなのである。(覆面Rが登場する過去の日記参照


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